絶望していたら・・・

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 大いなる海(仮)(1)

<<   作成日時 : 2009/01/11 23:28   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 それは、大気圏を越え、太陽を越え、我々の住む銀河をも越えたところでの出来事だった。緑の森の中で、枝葉がぽっかりとあいた柔らかな日差しがさす雲の地面の上で、そこにいるのは、二人の裸の男の子。100センチに満たない身長、丸っこくて、ぷりぷりとした肌は、我々の常識では、4歳から5歳と見受けられる。彼らの背中は、後背筋から骨のような白いものが飛び出していて、それは彼らが笑うたびにピクッと動く。
「ねえウリエル、きみはきのうなにをしていたんだい?」
「ぼくはね、きのうは、ぼうえんきょうでとおくのほしをみていたよ」
「へえ、どんな?」
「なんだかね、あおくてあかるいほしだったよ。それでね、あっぷにしてみてみたらさ、にんげんがいっぱいいたよ。ぶんめいはったつどは、Dってところかな。シュナイダーがみつけたところは、たしかJだったよね。さいちてきはったつせいぶつがカメで、あたまがちいさすぎて、ほしのたんじょうからさいてい200おくねんはたってるのにいまだにぴすとるもできてなかったよね。ぼくのかちだ」
「でもさ、そんなのうんじゃん。ウリエルさ、かけっこははやくなったかい?300ねんまえからくちばっかりで、ちっともせいちょうしていないじゃないか」
「いったな、そうしたら、いまからしょうぶしようじゃないか。このあいだすてろいどをいっぱいのんだからね。きっとはやくなってるはずさ」
「やれやれ、じゅみょうがちぢまるよ」
「ちょっとぐらいちぢんだほうがいいんだよ。ほっといたら4おくねんはいきちゃうんだから。ぼくたちは」
 彼らは立ち上がって、並んでクラウチングスタートの構えを取る。口調こそ柔らかいが、表情はいたって真剣だ。
「じゃあ、はんでとして、ウリエルは自分のたいみんぐですたーとしな。ぼくはそのあとでじはしりだすよ」
「まけたときのいいわけにしないでよ。よし、そうしたらきょりはどうする?」
「10きろでいこう。ダンレイのきがごーるだよ」
「よし」
 そして、ウリエルと呼ばれる少年の裏腿が、徐々に太い筋が浮かんできて、ボディービルダーの体のようにムキムキと膨らんでいく。かれがゆっくりと息を吐き出すと、雲の地面はぶわーっと拡散し、周囲は霧がたちこめたようになった。彼の口からは空気が出続け、彼の向いている方向の木々がバキバキと折れて、そして根こそぎ吹き飛んでいった。そして今度は下を向いて空気を吸い込むと、雲が見る間に彼の口に吸い込まれていって、大きなくぼみができていき、彼らもどんどん下がっていった。2分ほど吸い込むと、彼は吸うのをやめ、腰をちょっと浮かせた。そして、どかんと大きな音がしたかと思うと、ウリエルはF1レースを連想させる、ものすごいスピードで走り去っていった。ワンテンポ遅れて、シュナイダーも走り出したが、すでにウリエルとは見えないくらいの差が表れていた。しかしシュナイダーはウリエル以上に速く、木々をなぎ倒しながらものすごい勢いで進んでいく。ウリエルの走った後は雲が巻き散っていて霧が濃くて、視界がとても悪かったが、シュナイダーは時折視線を上げる。彼の視線の先にあるのは東京タワーくらいの高さの大きな木。
「ウリエーーール!まだまだだなあ」
「うそお!」
 気がつけばシュナイダーの後方からウリエルの声。シュナイダーはダンレイの木にタッチをして、勝ち誇った笑みを浮かべた。ウリエルはちょっと遅れて到着し、ぜえぜえと膝に手を置いた。
「シュナイダーさ、ぜったいはねつかったでしょ。はやすぎるもん」
「つかってないよ。それに、こんなもりのなかじゃとんだほうがおそくなるよ」
 シュナイダーの背中から、骨のような突起がにょきにょきと伸びてきて、鳥の羽のようなふわふわした毛が生え、そしてぱたぱたと動くと彼の体が地面から離れて浮き上がった。
「ぼくのきんぎょうしゅくりつは、たぶんウリエルの1.5ばいはあるよ。ウリエルはたしか、2050きろくらいだろ?」
「2072きろだよ」
「どっちもたいさないよ。ぼくは3200くらいあるもん。ウリエルさ、いいかげんちゃんとしたほうがいいよ。きみはそうやってうじうじとひねくれているから、400まんねんもかのじょがいないんだよ」
「そのことはかんけいないだろう」
「いや、かんけいあるね。それとも、むかしのかのじょがわすれられなくて、あたらしいかのじょをつくらないとでもいうのかい?」
「なんだと、シュナイダー、いっていいこととわるいことがあるよ」
「なんどでもいうよ。きみは、おとこらしくないんだよ、ウリエル」
「い、いったなぁ!」
 ウリエルは握り締めた拳をシュナイダーの顔面に叩き込んだ。風圧で地面が吹き飛び、葉は舞い、木々がきしむ。ウリエルは何度も何度もシュナイダーを殴り続ける。シュナイダーは、一発殴られるたびに、表情が硬い怒りに満ちていった。そして、ゆっくりと空手の正拳付きのような構えをとっていく。そうしてから、ウリエルの顔からみるみる血の気が引いていき、殴るのをやめた。
「ご、ごめん、シュナイダー。ちょっと、ちょうしにのりすぎたよ」
「もうおそい」
 その外見には不釣合いな冷たい声で、その言葉を言い終わった瞬間、その場からウリエルの姿が消えた。ダンレイの木のふもとから見えるのは、ウリエルとシュナイダーが走ってきた二つの道と、もう一本、さっきまでなかった木々の吹き飛んだ道。シュナイダーの拳からは、血がぽたぽたと落ちていた。
「またやっちゃった・・・ウリエール、ごめんよ、もうたたかないから、でてきておくれ」
 そう言って、シュナイダーは森の中へと消えていった。
 
 シュナイダーに殴られて、ウリエルは大量の鼻血を出した。そのうちの一滴は、ものすごい勢いで空へ飛んでいき、その星の大気圏を越え、その星にとっての太陽を越え、その星の属する銀河を越えた。その血は大気圏の熱さでも、宇宙の寒さにも負けず進んでいった。そしてウリエルの血は、長い年月を経て、地球へとやってきた。そして、ウリエルの血は、日本国秋田県大仙市にやってきて、その時たまたま大きなあくびをしていた、天野一男(17歳)の口の中へ入った。一男は、何か口に入ってきた感じはあったが、特に気にもせず、喉にくっついていたウリエルの血を、つばを飲んで、胃へと流し込んだ。彼にとっても、他の人にとっても、その日はいつもの朝の始まりにすぎなかった。
 戦争はやまずとも、それなりに平和だった地球が、人類だけでなく生命存亡の危機に瀕するのは、この日からであった。
 

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文